運命
美容師のお姉さんに憧れて、1週間以上が経った。ぼくは、美容師のお姉さんに近づくためのプランを実行した。大好きな彼女のために。
まずは、彼女の載ってる雑誌探し。ブックオフを何店舗か回ったが、男性誌に載っている彼女のスナップは今とは髪型が違い、少しイメージの違うものだった。女性誌は、調べてあったやつは見つからず、他のサロンスタッフが載っている雑誌を恥ずかしながら少し見たが、彼女が載っているものに出会えなかった。そして、原宿のブックオフがつぶれていてショックだった。
そして、最初の月曜日。その日は彼女の美容院は休みの日だったので、彼女がカットモデルを探しに街に出ているかもしれない日だった。しかし、その日は今の彼女がフランスに発つ前の最後のデートがあったので、一人で歩き回ることはできなかった。でも、そのガールフレンドと一緒に原宿を歩いていたら、美容師の女性らしきコートを着た人を一瞬見たような気がした。そして、その美容院の男のアシスタントの人を見かけた。もしその美容院の女性らしき人が本当にその人だったらと、うじうじ考えて少し後悔した。
水曜日。ぼくはその美容院の彼女には会えないけど、なんか雑誌とかに声かけられたりはしないだろうかと思って街を歩いた。しかし、あいにくの雪。ちょっといい格好をしすぎて、外を歩く気さえあまり出ず、ずっと表参道ヒルズのベンチに座っていた。でも、こんなことしててもダメだと、街をかさをさして歩いていると、モデル事務所の方にスカウトされた。完全に奇跡だった。そのときは本当にそう思って興奮した。あいのりに出てたことのある人が入っている事務所で、もしかしたら本当に美容院の彼女に近づけるのではないかと興奮した。でも、家に帰って調べると、その事務所は結構スカウトをよくしているところで、いろんな人を声かけて、そして、レッスン料等にお金がかかるらしい。モデルになるのはお金がかかるらしく、いろんなサイトで詐欺的な話も出ていた。でも、話は聞きに行った。銀座のマンションだった。でも、そこまであやしい感じはなく、レッスン料と撮影料で9万円。それ以上はかからないらしい。他の事務所に比べれば全然安い方だし、あからさまに詐欺のような事務所ではなかった。ぼくは、今日まで真剣に悩んだ。一応その事務所が抱えてるモデルさんは本当にいるし、仕事も本当にありそう。でも、そんな人は一握りだし、いろんな人に声を掛けている事務所なら、仕事のない人だってたくさんいるはずだ。でも、美容院の彼女に近づくためにはよい近道になるかもしれない。もし、ぼくがその一握りになれるのなら、彼女の美容院にモデルとして行くことだってあるかもしれないし、彼女に知ってもらえて、仲良くなれるかもしれない。仕事は本当に来るのだろうか。とても考えた。そこでぼくが考えた結論は、ギャラ引きだ。ギャラで9万円返すという方法。事務所から電話かかってきたら、それを提案してみよう、そしたら事務所が自分をどの程度評価しているのかが分かる。もしそれでオッケーしてくれるのなら、返せるだけの仕事が来る見込みがあるってことだし、だめだったら、やっぱりかもってことかなって。今日、事務所から電話がかかってきたので、それを提案した。しかし、やはり答えはノー。ギャラ引きをするのは特待のみ、仕事にすべてをささげてくれる人じゃないとだめだって。もっと突っ込んで話せばよかった。一生懸命仕事しますって少し説得してみればよかった。でも、そう言われてしまっては断るしかなかった。ぼくは本当に情けなくて、勇気のない人なんだろう…。
もちろん、その日は他に声かけられることはなし。そして、次の週の火曜日。本日。再び美容院の休み。今日は絶対に美容院の彼女に会おうと決心して街に出た。しかし、やはりあいにくの雨。ぼくはどうしてこうだめなのだろうか。彼女へのプランを決行する日はいつも雨。今日は、真剣に歩いた。常に会ったときどのように話しかけるのか考えながら。渋谷、西武、マルイ、ファイヤー通りから原宿駅、原宿の通り、ラフォーレ、表参道、青山、ひたすら歩いた。彼女に会えたら、モデル事務所のスカウトの話とか、直島の話とか、何度もシミュレーションした。何度も勝手に妄想で会話した。バレンタインも近いし、彼女からチョコをもらいたかった。本当に彼女に会いたかった。でもどうせ会ったら声もかけられないのかなってネガティブになったり、一緒に代々木公園で休憩するようなポジティブになったり、とにかく彼女のことをいろいろ考えながら、きょろきょろしながら、歩いた。先ほどのコースを2往復した。彼女に会えることだけを期待して2往復した。3時間くらいあるいたかもしれない。午前と午後で2往復。彼女に会ったらどうしよう、いたらどうしようと思いながら。
でも、結局会えなかった。彼女はいなかった。今日はバレンタインも近いし、今日くらいは彼氏とデートでもしてるのかもしれない。カットとか、カラーとか、パーマとか、休みの日もレッスンしてるのかもしれない。毎日の疲れでずっと寝てたかもしれない。ぼくには彼女が今日何をしていたかはわからない。でも、いろいろ考えた。彼女が何をしてたか気になった。誰か教えてほしい。彼女に会えなかったのが本当にくやしかった。
運命とはなんなのだろうか。ぼくは、美容院のその彼女に運命を感じてはいけないのだろうか。彼女に声をかけられたとき、60億人の人の中、あまり人通りの少ないところで、ぼくはたまたま声をかけられた美容院に行った帰りで出てきた。彼女はたまたまそこを通りかかったと言う。そして、そこに出くわしたとしても、彼女がちょうどぼくを注目し、ぼくはちょうど美容院の帰りでいい感じの髪型だった。そして、彼女がぼくに声をかけた。これは運命ではないのか。よーく考えればなかなかの偶然である。すごいことであるように思う。でも、今日ぼくが歩いた3時間は、運命を確かめに行ったのだ。彼女に会えるなら、運命なら、きっと今日彼女に会えることができたかもしれない。運命を確かめに行った。これでも無理やりな運命である。今日は彼女が美容院が休みで、カットモデルを探しているはずだ。そして、いそうなところは全部行った。確率で言えば高いように思える。それでもぼくは彼女に会えることができなかった。ぼくは今日完全に運命を作ろうとした。運命は自分で作るものだと思った。でも彼女に会えなかった。とてもくやしく、寂しかった。
ぼくは、今彼女にメールを送ろうか悩んでいる。スカウトのこと、コラムで言ってた直島のこと。あなたはきっとすばらしい美容師になれますって言いたいけど、いきなりメールを送るのもやっぱり変だし、勇気が出ない。彼女にきもがられたら、うざがられたら、彼女に嫌われたらおしまいだから。そして、いっそのことデートに誘おうかとも考えている。このままでも、何にも起こらないままだ。もしかしたらもう1度くらいはカットモデルで切ってもらえるかもしれないけど、それだけだろう。でも、あんなに楽しくて幸せだったあのカットモデルの時間をもう一度味わえるのはとてもうれしいことである。また、今のぼくの彼女がフランスから帰ってくる前に、決着をつけたいってのもあった。ぼくは二股がかけたいわけではない。もし、万が一美容院の女性とうまく行くようならもちろん今の彼女とは別れるつもりだ。うまくいかなくても、こんな思いのまま彼女とは付き合っていけない。もちろんぼくはその彼女が嫌いなわけではない。好きである。この気持ちは言い訳にしかならないので、うまく言えないが、とにかく今は美容院の彼女だ。美容院の彼女のことばっか考えてる自分がいる。9泊10日の旅行が近いのに、美容院の彼女のことばっか考えている。デートに誘えたとしたら、どこに行けばよいのだろうか無駄に考えてしまう。宇宙一優柔不断なぼくに彼女をデートに誘えて、彼女を楽しませることができるだろうか、悩ましいところである。でももちろん、デートに誘ってふられたら、もうそれで終わりである。もう一度できるかもしれないカットモデルは絶対にない。彼女に会っても話すことすらできない。今の関係を崩してしまうことになる。それがぼくには怖い。そしてその可能性は果てしなく高い。彼女のことぼくは何にも知らない。きっと彼氏だっているのだろう。きっといろんな男性に好意を持たれているのだろう。タバコを吸う人だったらどうしよう。彼女のいる世界に全然は入れてない。彼女に全然近づいてない。でも、もうこの感情抑えられないし、彼女に会いたい。もうどうすればよいのかわからない。未送信ボックスに入っている彼女へのメールを何度も見ては修正している。何度も考え、躊躇して、ずっと未送信ボックスに入ったままなのだろうか。送ってしまったらもう終わりだ。ほんのわずかな米粒よりも小さな望みにかけるのだ。ぼくにはそんな自信ない。でも、その想いはきっと届けたい。ぼくとデートしてほしい。彼女からチョコがほしい。年の差だって少しはある。年上のお姉さんだし、ぼくみたいな子供には興味ないだろう。でも、ぼくはあなたが好きです。それは、もう仕方ない。好きなんだから。ぼくにはもうわからない。何を信じ、何を求めればよいのか。でも、これだけは確かだ。何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはならない。何かを捨てなくてはならない。それがきぼである。わからない。むずかしい。
美容師の彼女が好きです。
でも、怖すぎるよ。


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