幸せにする
ぼくは、もっと真剣に考えなくてはならない。
もっともっと、いろんなこと真剣に考えなくてはならない。そう思った。
恋に浮かれて、美容師の彼女に浮かれて、ただ待ってるだけで。いろんなメールが未送信ボックスにたまっている。どうにかして彼女に会おうとしたりする。結局、何にもあきらめられてない。今でも、同様に、いや、前以上に彼女のこと考えて、彼女のメールを待っている。どんどん、遠くなれば遠くなるほど、愛おしくなっていく。ぼくは彼女のことが好き。それは確かに感じることだ。
日曜日、ぼくは彼女に会おうと、とりあえず青山まで行ってみた。一応、日曜日は6時に閉店するはずだったので、もしかしたら、その後出てくるかなって思った。7時から自由が丘で予定があったので、全然時間なかったけど、6時15分くらいから、40分くらいまで、彼女の美容院の前を無駄にうろうろしてしまった。もしかしたら彼女が出てくるかもしれない。もし出てきたとしても、きっと話しかけることなんてできないけど、ただ、なんとなく惜しみながら、美容院を見てた。もちろん、出てくるはずなんてない。普通にその後帰るにしても、中でいろいろやることがあるだろうし、出てくるのは早くて7時くらいだろう。きっと、6時閉店ということはパーマとかそういうレッスンがあるのかなぁなんて気もする。とにかく、日曜日はもしかしたら彼女から連絡来るんじゃないかってどきどきする日である。俺、なにやってんだろう、そう思う。でも、行かないわけにはいかなかった。たぶん、その時間に彼女あ出てくる確率は0%。でも、行かないわけにはいかなかった。いつだって、一人で買い物に行くときは、彼女の美容院の前を通ったりする。これといって何があるわけでもないのに。なんとなく、通らないわけには行かなかった。そして、彼女の美容院に向けて、指をさして、「バーン」てやる。意味もなく。
次の日、月曜日。ぼくは最近平日は神泉の近くで仕事をしているのだが、その日は偶然1時間の休憩を一人で取ることになった。月曜日は、彼女の美容院が休みの日。彼女がどこかでカットモデルを探しに街に出ているかもしれない日。気づいたら走ってた。1時間の休憩で、彼女を探しに走ってた。まず、コンビニでパンを買って、食べ歩き。道玄坂を駆け下りて、渋谷から原宿、青山まで行った。休憩だし、財布と携帯だけ持った手ぶらの状態。その日はなんかやる気でなくて洋服もてきとう。めがねだし、髪にワックスもつけてない。こんな状態じゃ会ったって話すことなんて絶対できない。でも、やっぱり会いたかった。たぶん、相当きもかっただろう。手ぶらのださい格好しためがねのもっさい男が、パン食いながら走っているのだ。彼女のいるかもしれない場所は、きょろきょろしながら汗びっしょりで歩いてた。本当に気持ち悪かったと思う。でも、彼女に会いたかったな。でも、やっぱり彼女には会えなかった。いなかった。走って帰った。意味分からないくらい汗だくで仕事に戻った。くやしかった。足もいたくなった。でも、やっぱ彼女に会いたい。会いたい会いたい。
今、彼女は何をしているのだろう。そんなことふと考えたりする。仕事がんばれって思う。でも、彼女が美容院で仕事する限り、きっとぼくみたいに彼女に想いを抱く人が現れるのだろうなって思う。そして、その中でいったいどれだけの人が、ぼくみたいに彼女にアプローチをかけるのだろうか。そして、そのアプローチした人の中で、彼女はどのように対応しているのだろうか。そんなことが気になってしまう。きっとちょーかっこよくて、ちょーおしゃれな人だっているだろう。仕事場の男性だってみんなかっこよかったし。彼女はそういう環境にいる。彼女が一体何をしているのかなんて、全然わからない。どんなお客さんを接客しているかなんて、全然わからない。どんな生活してるのかなんて、全然わからない。もしかしたら、本当に全然時間がないのかもしれない。もしかしたら、いろんな男の人と遊んだりしてるのかもしれない。もしかしたら、普通に彼氏とかいるかもしれない。直島だって誰と行ったのか気になるところだ。彼女のこと考えるたびに、不安になったり、自己嫌悪になったり、逆にテンション上がったり。行きたいって言ってくれたんだって自信持とうとしたり、彼女は仕事忙しくて、恋愛どころじゃないのかなとか思ったり。いろんなこと考える。でも、どこかでまだ期待してるのは確かだ。絶対に無理だと思っていながらも、小さな希望を信じている。彼女と連絡とろうと、いろんなメール考えたりしてる。ありがとうございましたって、好きでしたってメール。もうあきらめなきゃだめですよねって聞いてみるメール。思いっきり素直になって、あなたのこともっともっと知りたい。あなたのこと好きみたいですってメール。彼女の出てるサイトのこと。美容師試験のこと。第三火曜日のこと。いろんなメールが、未送信ボックスにたまっている。どれも、へたれでどうしようもないメールだ。何も送れない。
ぼくは、真剣に考えなければならない。そう思った。バカみたいに望みを求めて、バカみたいにメールを待って、バカみたいに表参道行って。そんなことしてるのは、結構はがゆくて辛いけど、誰も関わってないし、自分が考えるだけだし、誰も傷つけることはないし、楽っちゃ楽である。逃げである。ぼくはいつもそんな恋をしている。こんな恋が自己満足なのかもしれない。高校の頃は朝、見てるだけの恋とかした。今度は、ただ待つだけの恋である。レベルが下がっている。なんか、もっと真剣に考えなければならない。今日、「プロポーズ大作戦」のスペシャルを見た。結婚とかが出てきて、いろいろ考えさせられた。一緒に生活すること、ずっとそばにいること。人を幸せにすること。ぼくが、人を幸せにする。そんなことできるのだろうか。しかも、その幸せは、相手に与えるだけじゃなく、相手を幸せにすると共に自分も幸せになるのだ。結婚は、単純に考えれば、そういうことなのかもしれない。でも、もちろん現実的な問題だって出てくるし、そんなに単純ですっきりしたものではない。とりあえず、そんなドラマのような、ロマンチックな結婚てやつを考えてみる。あなたを一生幸せにするから。そんな言葉、どうして言えるのだろうか。正直ぼくにはわからない。相手を幸せにするということ。ぼくといることで、相手が幸せになるとは思えないし、それでは幸せにするために何かを与えるのかというと、それは愛情ってことになるのだろうか。相手だけを見続ける、そんな愛情ってことになるのだろうか。それが、幸せなのだろうか。それで、相手を幸せにすることができるのだろうか。幸せってなんなんだろうか。そこで、美容院の彼女のことを考えてみる。ドラマに出てくるいろんなシチュエーション、セリフ。彼女に照らし合わせてみた。ぼくにとって、彼女は、今まで生きてきた中で初めて、無駄に結婚を考えた女性である。田舎で、二人で暮らしたい、そんなこと考えてしまった。そんな夢を描いてしまった。でも、きっとそれは彼女をまだ何も知らないからなのだろう。何にも知らないからこそ、思い描ける理想とか、憧れってやつなんだろう。まぁ、それでも恋の理想のたどり着く場所が、結婚になり、その後の二人の生活になったことは、ぼくにとっては考えられない感情だった。ふと、そんな風に考えてしまった。脳みその脳みそが考えたことではないような、そんな感情だった。これが本能ってやつなのだろうか、わからない。でも、そんな彼女を幸せにする。そう考えると、やっぱり少し怖くなった。もちろん、彼女には幸せになってほしい。そこにぼくがいなくても、どんな内容であろうとも、彼女には幸せになってほしい。でも、幸せは彼女が感じるものだし、彼女が選ぶものだ。でも、この幸せにするって感情も、ふと出てくるものなのだろう。脳みその脳みそが考えた感情ではなく、本能のように、幸せにしたい。幸せにしてあげる。そう思うのだろう。
だから、ぼくは、もっと真剣に考えなければならないって思った。独りよがりの自己満足の恋愛じゃなくて、相手のこと、自分本意の感情も含めた相手にも関わってくるような恋愛。そして、もっと彼女のこと現実的に考えて、彼女を包み、支えていかないといけないって思った。なんかよくわからないけど、ぼくもまだちゃんと整理できてないけど、本気で彼女のこともっと知りたいって思うなら、それなりにやれることはまだある気がするし、もっと彼女のこと考えていける気がする。よくわからないけど、とにかく真剣に向き合っていかなければならない気がした。そして、人を幸せにするってこと、わかるときが来るかもしれないって思った。理想と現実の狭間は難しいけど、その狭間こそが、恋愛ってやつなのかもしれない。理想にあふれすぎても、現実的に考えすぎても、そんな恋愛は逃げでしかないのかもしれない。
それが美容院の彼女じゃないにしても、「彼女のこと幸せにします」ってその彼女のお父さんとかに言うことがあるのだろうか。そんなこと考える。美容院の彼女とは、とりあえずこのまま何もなく終わってはいけない。真剣に彼女と向き合っていければと思う。メールだってまたちゃんと送らなければならない。一生懸命考える。送る内容、タイミング。ぼくにできることなんてまだまだ少ないけど、まだ彼女のことあきらめない。彼女のこと大好きだし。本当に、真剣に彼女のこと大好きだし。彼女のこと何にも知らないしバカみたいだけど、どうしようもなく好きなんだ。

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